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ディズニーミュージカル「美女と野獣」★★★★☆

パリでミュージカル「美女と野獣」をやっていたので観てきた。

ちょうど最近ディズニープリンセスの系譜について考えていて、まさにこの「美女と野獣」をもう一度観直したいと思っていたところにすばらしいタイミング!以前パリでは同じ劇場で「ライオンキング」も観たことがあって、NYで観たときよりずっと良かったので期待したらやはりよい出来。パフォーマンスの仕上がり自体が手抜きなく全力だし、改めてディズニー作品の中でも「美女と野獣」は突出した作品だったなと実感した。

個人的にはオリジナル版の英語訛りのフランス語に違和感を持っていたのでぜんぶフランス語なのもすごくナチュラルでよかった!リュミエールの軽薄で調子いい台詞回しがフランス語だとなんと普通に聞こえることか…

そしてベル役のマノンタリス。心奪われた。
フランス人女優にこんなに歌も演技も上手くて才能ある人がいるとは!どうもフランス人女優ってコケティッシュでちょっと顔残念か、歌うけど歌が微妙という人ばかりの気がするけど、彼女は美人だし歌も演技もよくて新鮮な発見。抜けていかないパワフルな声で、低音も高音もいい。かしこくて芯が強くて大切なもののためには優しい、魅力的なベル。この人は今後も追いかけて見たい!


ただ、改めてストーリーそのものを追ってみると、わたしには野獣が最後美しい王子になるという点が承服できないんだよなあと思い出した。これは映画で観たときから感じていたことだけど、目に美しいか美しくないかとは関係なく好きになった人はその人の外見と中身とぜんぶ合わせてその人だと思うので、せっかく愛するようになっていきなり姿が変わったら実際のところベルも困惑するのではという思いが拭えない。(これをあえて修正してきたピクサーの「シュレック」で、呪いにかけられていたプリンセスフィオナが愛する人を見つけると呪いが解けて、美しい姿ではなく怪物の姿に固定されるのは筋としてはやはり通っているよなあと思う。I was supposed to be beautiful.(美しい姿に戻るはずだったのに)というフィオナにシュレックはbut you ARE beautiful.(でもきみはこれで美しいよ)と返すとこもいい!)

フランスの童話には「巻き毛のリケ」という物語があって、その物語では生まれつき賢いがとても醜いリケ王子と、生まれつきとても美しいが頭が空っぽの王女がそれぞれ愛する人を見つけることによって自分の持っているもの(美しさと賢さ)を相手に与えられるという魔法をかけられている。そして結末で王女は美しくかつ賢く、王子は賢くかつ美しくなるのだけど、「じつは実際にはリケの姿は醜いままでした。愛することを覚えた王女の目にはリケが美しくうつっていたのです。なぜなら美しさは見るものの目に宿るものだからです」という言葉で締めくくられていて、これはいい終わりだと思う。
その点、どうしても最後の最後が美女と野獣はもやもやする。

というかディズニーのプリンセスものはどれもある種のもやもやを感じさせられていた。それを初めて打ち破ってくれたのは「魔法にかけられて」で、それがついに王道のプリンセスアニメ映画でやってくれたのが大ヒットになったFrozen(アナと雪の女王)。Frozenは先に夫が観て、すごくいいから観た方がいいと言われて観て、ほんとうに感激した。今までのプリンセスに感じていたさまざまなもやもやを初めて感じず、しかもそれを感じさせない映画をあえてディズニーがやったのだという事実が伝わるからこその感激。

Frozenでプリンセスの立ち位置は明確に転換したと思う。
プリンセスには金髪もいるけど赤毛もいるし、ソバカスだってある。美しさはお姫様の絶対条件ではないし、この映画でだれも彼女たちをそれだけのためには褒めない。おしゃれをしているシーンで「素敵ね」とさらっと褒め合うに留まっている。そして姉であるエルサは王子そのものを必要とせず一人で自立した女性として描かれてるし、妹であるアナは一目惚れした王子に救い出してもらうわけではなく、協力して物事を成し遂げた対等な立場の男性に恋をする。物語からは一人でいることを選ぶのも自由だし、パートナーを持つのも自由。でもパートナーを持つなら「一目惚れ」や「運命」に頼るのではなく、自分の目で経験で対等な人を選ぶこと。選択が間違っていることもあり得る。そして「真実の愛」は必ずしもいつか現れる王子様と女の子との間にあるものだけではない。というメッセージが感じられる。すごく現代の女の子の価値観に合ったプリンセス像だ。

そもそもプリンセスの系譜を考えたときに、「美女と野獣」あたりに始まってその後「アラジン」のジャスミン、「ポカホンタス」「ムーラン」など少しずつトライをくり返して「メリダ」や「魔法にかけられて」のあたりではっきりと現代の価値観に近い、自分の意思を持っていて勇敢で自力で道を切り開こうとするプリンセス像が提示されたと思う。ただ、「魔法にかけられて」はセルフパロディとも言えるやり方で実写だし、あと一歩踏み込みが足りなかった。そこをFrozenはやってのけた感じ。連綿と続くプリンセスの系譜の中で転換点を置くとしたらわたしは美女と野獣とFrozenかなあと思う。

観にきているひとも同じくらいの年代の人が多くて、昔観て好きだった人がきっとたくさん来ているんだなと思った。内容はfrozenと比べるとまだ前時代的だけど、あの頃なりのチャレンジが見えてベルはすてきだし、音楽は色褪せない。いいミュージカルだった。