utopiapartment

about something too important to be taken seriously

モーツァルト「魔笛」★★★★★

バーデンバーデン音楽祭のためにカーセンが新しく演出した魔笛。
行くか迷ってたら強くすすめられたのでパリ旅行ついでに観てきた。

パリにいた頃はまったく感じたことなかったしミラノやトリノですっかり満足していたのに、いざ足を踏み入れたら、オペラバスチーユのこの、広さ!大きさ!見えないとやだなと思って前めの席にしたけどバスチーユは柱の後ろでさえなければかなり見えるということを忘れてた。
そしてこの内容でこの劇場でいちばん高い席でも200€しないという事実。スカラなんて行ったの後悔するようなお粗末な内容や装置なことあるし、あのしょぼい建物でいちばん高い席250€超えるのに…!
(しかも年間スケジュール送ってくるわけでもないのに毎回手数料1人40€も取るし)フランスとイタリアの国力の差をこんなところでまざまざと感じてしまった。

いやー、お金って正しく潤沢に使われるとほんとうに輝くなあ…
衣装も舞台装置も、一見とてもシンプルで、ミニマルだけど、隅々まで計算されてて使うところには豊富に使われてるのが見えて気持ちが良いほどだった。見た目にわかりやすく金ピカ装置とか、豪華衣装なのよりよっぽど圧倒される。

出演者はほとんど知らない人ばかりだったんだけど、総じてよかった。
たくましくバックパックしょってクーラーボックス持って客席後ろから現れるパパゲーノ、可憐さと強さを持ったパミーナに、凛々しいタミーノ、夜の女王は若く見えたし細ーい身体なのに(あとから期待の若手だと知った)見せ場アリアも観客が「来た…!」と固唾を飲んで集中する中、見事なコロラトゥーラで決めて喝采。ポストデセイって言われてるみたいだけどたしかに似てるとこある。ザラストラも重々しくて存在感が効いててすごくよかった。

演出で宝塚の銀橋みたいなのがオーケストラピットを囲んでて、出演者が何度も前の方に出てくる。これが客席まで取り込んだ雰囲気を出していて、さすが音楽祭向けだなあーバーデンバーデンでも受けただろうなあと思った。人工芝が敷かれた銀橋や、本物の土を深い深い層で使った舞台のせいか、屋内だけどすごく開放的でまるで春に屋外で見ているような気持ちになる。

こういうのがあるからコンテンポラリー演出はいいんだよなあって思った。
魔笛はファンタジー世界の話だから時代設定がないのもいいんじゃないかって友達が言ってたけど、たしかにコンテ映えする題材なのかも。イルミナティの暗号が隠してある(だからモーツァルトは暗殺された)という陰謀論があるけどそれくらい形而上学的で暗示的で、「メッセージが普遍的」というのを頼りにコンテ演出される時代ものより、よっぽど解釈が自由とも言える。

白黒を基調とし、また対比させた衣装はシックでとにかくかっこいい。
ジョルダンの指揮も、久しぶりに聞くとイタリアとはあきらかな違いを感じるフランスのオケも、なんだかいろんなことが眩くて圧倒されて上手に飲み込めない感じでふらふら帰った。いやーーパリいいなあ。やっぱりここだけのよさがあるよなあ。