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ヴェルディ「アイーダ」(ヴェローナ)☆☆☆☆☆(星なし)

野外オペラ祭を観にヴェローナへ向かった。ヴェローナはロミオとジュリエットの街。
時間の関係であまり観光は出来なかったけれど駅を降りたらお花のいい香りがして、町中バラが植わっていて、中世時代の建築がたくさん残っていて可愛い街だった。観る予定の演目はアイーダ。ヴェルディ後期の名作オペラで、サッカーの試合などでよく使われる凱旋行進曲がなんと言っても有名。
(これ http://youtu.be/l3w4I-KElxQ )


物語:
舞台はエジプト。
隣国エチオピアのお姫様アイーダはエジプトで捕虜になりエジプトのお姫様アムネリスの侍女をしている。アイーダとアムネリスはどちらもエジプト将軍ラダメスに恋をしていて、アイーダとラダメスはひそかに身分の違いを越えて愛し合っていた。

ラダメスはエチオピア討伐のため戦いに出る。祖国を想いつつラダメスを心配するアイーダの様子に、アムネリスは彼女がラダメスを想っていることに気づく。ラダメスは無事戦いに勝ってエジプトに帰還。エジプト王は褒美として娘アムネリスをラダメスに娶らせると宣言。戸惑うラダメスとアイーダ。また、戦いで捕らえられ連行されてきたエジプト捕虜の中にじつは身分を隠したアイーダの父、エチオピア王アモナスロ がひそんでいた。

父であるアモナスロから秘密裏にエジプトの弱みを探るように言われるアイーダ。もうこうなったら二人で国を捨てどこか遠くで暮らそうとラダメスに持ちかけると、ラダメスも了承し見張りのエジプト軍のいない場所をアイーダに教え、そこから二人で逃げようというのだった。それを聞いていたエチオピア王アモスナロ、エジプトを攻めるよい情報を得たとほくそ笑む。そこへアムネリスもやってきて、とりあえずラダメスはアイーダとアモスナロを逃がすのだった。

重要な機密をエチオピア側に漏らしてしまったラダメスは死刑。ラダメスを愛するアムネリスは、アイーダとのことをあきらめればなんとか命を助けるというがラダメスは首を縦には振らず死刑を受け入れる。そして地下に生き埋めにされることが決まったラダメスは、地下牢でアイーダを見つける。アイーダは彼とともに死ぬためひそかに牢に入り込んでいたのだった。



この野外オペラ祭は古代ローマ時代の円形競技場Arenaで行われる。
野外オペラ祭開幕初日だったせいか、カメラを向けられるセレブらしき人たちがちらほら。
平土間部分の席は服装もばっちりイブニングの人たちで埋まっていて見ていておもしろかった。映画祭みたい!
しかし肝心のオペラ自体は今まで観た中でいちばん観づらく…まず観客の気が散りすぎていて気になった。たぶん「オペラ」を観に来てるんじゃなくて「オペラ祭」を見にきている人たちが多いんだなあ。上演中ぐるっと円形になった観客席からフラッシュを焚いて写真撮る人が後をたたず光がチカチカする、携帯を見ている人が視界にたくさん入って画面の光が邪魔になる、撮影禁止にも関わらずiPadを出してビデオ撮影する人etc…

20分の休憩が3回入って(計1時間!)物語の中断が多かったのと、劇場のように字幕が出ないのでこまかいセリフがわからないこと、それからなんと言ってもカタルニアの演出家集団La Fura dels Bausによる演出が不発だったことも重なってわたし自身もオペラを愉しんだとはいえない状況。でもたとえ観る気がない人でも集中させて掌握しちゃう舞台というのはあるし、演出の功罪がいちばん大きいと思った。


演出はスターウォーズとシルクデュソレイユとインディジョーンズかなんかいろいろ足して割れなかったような演出。(夫曰くスターゲートというシリーズにも似てるらしい )

最初、考古学者みたいな人たちがエジプトの遺跡を調査しているような導入はよかったのだけれど、その後ギンギラギンの宇宙服のようなエジプトの人たちが出てきて、現代の工事現場のような服装のコーラスと宇宙服のエジプト人たちがいっしょにいる意味がまったくわからなかった。歌や演技はそのまま古代エジプトなのでほんとうになんで現代の調査隊や工事現場の職員が周りにいるのか謎すぎる。時代設定はどこなのか。王様たちは未来的に見えるわりに連行される奴隷の扱いはリアルで鞭打ってる人たちは現代人のように見えて脳が混乱した。ライオンキングの舞台に出てくるような葦草の役の人たちとか地を這うワニ役の人も混ざっていてカオス。本物の動物を出さずメタリックな象とかラクダが出てくるんだけどこれも…小学校の学芸会用に教室の椅子とダンボールで作ったような甘い作り。

丸い灯りを手に持たせた人を競技場の石段後方にぐるっと配置するところなどハッとするものはあったのだけれど物語とすごくズレていたし他との調和がない。ミニマルでもない、フューチャリスティックでもない、インダストリアルでもない、いろいろアイディアはあったけれど最後まで主軸のアイディアが選べないまますべてを中途半端なまま取り入れて見切り発車して崩壊してしまった、という印象だった。
あれが完成形なら演出するのはオペラじゃなくてもいい。オペラに色気を出さず以前やったバルセロナオリンピックの開会式のようなイベントを演出してはいかがかと思う。


なにより許しがたかったのは歌の途中に背後で邪魔な音が入る演出が多々あったこと。
二重唱の背後で、背景の巨大な岩山らしきバルーンを膨らませるシューッシューッという音が続いたり、アイーダが悲嘆にくれピアニッシモで歌う場面で後ろで水をばちゃばちゃ蹴り上げてふざけるダンサーを出したり(邪魔!!!!ほんとうに邪魔!!)一回や二回ではなかったのでほんとうにそこ(歌が重要なシーンでの歌の軽視)が気になった。オペラの演出初めてじゃないのになんでこんなことに気づかないんだろう?なんで当日までだれも意見しなかったんだろう?
それと、冒頭で書いた凱旋行進曲で金管楽器の人たちだけオーケストラピットから離れた石段のところに配置されてたんだけど、指揮が見えない位置なのかなんなのか完全に音とタイミングを外していてびっくりするほどお粗末だったのもがっかり…もうツッコミどころがあり過ぎてこれ以上数えたくない。



唯一、アイーダ役のフイヘーはよかった。こんなにもへんてこな状況であそこまでのパフォーマンスをやり切るのはさすが。。今回がヴェローナデビューというラダメス役のサルトリもたっぷりしたよい声でフイヘーとよく調和していて、この二人のデュエットは歌だけに集中して聴けばよかったけど、ラスト生き埋めになるところも邪魔な演出が入ったのでほんとうに気の毒と言うしかない。こんなにわかりやすく共感しやすい物語と音楽なのにここまでひどいものにできるというのが驚きだった。
開幕は1913年当時の演出再現のバージョンでやった方がよかったんじゃないかな…
8月からのこっちのバージョンを観にいくかどうするか考え中。

今回のクレジット