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about something too important to be taken seriously

團伊玖磨「夕鶴」★★★★☆

日本に帰国してから初めてオペラを生で観に行ってきた!
ずっとみてみたいと思いながらみたことなかった、日本語オペラ、夕鶴。
たまたま東京の新国立近くに公演日に居合わせることに気づいてチケット見てみたら
まだ残っててすべりこみ。結論としてはとっても、とっても、よかった!!たのしかった!

ストーリーは日本の昔ばなしの代表的なもののひとつ、鶴の恩返し。
矢が刺さってケガをしていた鶴を助けた独り者、与ひょうのもとにある日美しい女が訪ねてきて、
妻にしてほしいと言う(現代ならその時点で怪しいがここは日本昔ばなし)
その妻つうが織る布があまりに美しく高値で売れ、都でも評判になるほどだが
与ひょうはつうから機織りをする姿を見てはいけないと約束させられている。
しかしあるとき我慢できず与ひょうがのぞいてしまうと、そこには自らの羽をくちばしで抜いて
機を織る鶴の姿があった。秘密を知られたつうは哀しみのうちに去っていく、というあれ。

オペラ版はこの短いお話を2時間に引き延ばすため
与ひょう(テノール)、つう(ソプラノ)以外に、
村の子供たち(コーラス)、惣ど&運ず(バリトン、バス)というわかりやすく悪人な村人がいて
歌唱上もバランスが取れるようになっている。作曲は当時20代の團伊玖磨。
脚本の元になったのは木下順二作、山本安英主演で1949年に初演された同タイトルの戯曲。
知らなかったんだけど、オリジナル戯曲は山本安英のために書き下ろされ37年間にわたって上演、
彼女以外による上演をゆるされなかったという伝説の舞台(っていうか紅天女の元ネタ)
ほんものの月影先生がいたとは…!!あつい!!

キャストは3日目の方。


今回のオペラは栗山民也2000年演出バージョン。
上手側と舞台奥の壁にバンと水色と紫の色が当てられてる中に
舞台中心から下手に向かってポツンと一本枯れ木が立っていて雪の降る広場、
上手手前に歌舞伎で見る感じのシンプルな構造の与ひょうの家(能舞台イメージらしい)
家の壁はプロジェクションできるパネルになっていて、その奥は機屋をあらわしている。
っていうミニマルな、しかし効果的で少し禅を思わせるセノグラフィー。

これに似たシンプルな構造のセノグラフィーは最近のコンテンポラリー演出ではよくあるけど、
少しヨーロッパのそれと違うと感じたのは、ヨーロッパだと一面まっっ白にして装置を最小限にして
舞台の変化に従って何かがそこに加わっていくという形を取ることが多い気がするんだけど、
今回のこの演出は何かを加えるというよりは状況が変わっているのに構造が同じであることで
逆に変化を際立たせているように感じて、その知的さに痺れてしまった。

脚本も、演劇版と一字一句違わないそうだけれど、
戦後日本で人々に物質の豊かさに囚われてはいけないと説く少し宗教がかったものを感じるものの
それが悪く出ていなくて、きちんとオペラという音楽と歌唱の力で増幅されて胸に響いてきて、
ひさしぶりに感動した。