utopiapartment

about something too important to be taken seriously

やっとパラサイト

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(時間も経ってるのでネタバレあります)
話題になってた頃には正直ソンガンホさんしか顔がわからなかったのに、ステイホーム生活の間に韓国ドラマやバラエティを見まくってた時期を経ていたため、いざ見たら見たことある人ばっかりだ。豪華キャスト!とくに家政婦出てきたとき、うおーってなった。なのでわたしとしては今見て良かったかもしれない。

見終わって最初はポンジュノ作品にしてはクリーンで薄味だなと少し拍子抜けしたんだけど、そのわりに見終わってからずっと気づけばパラサイトのことばかり考えている。世界中みんなこんな気持ちになってそれであの快挙なんだな。遅まきながらわかりすぎた。そりゃそうだな。


しかしカンヌやオスカーをとってもそこまで俳優たち一人一人にはスポットが当たらなかった(SAGアワードでキャスト賞を取っているので対象者を俳優たちに絞れば彼らの演技は伝わっているのだろうけど)のが一部で話題になってたことにも納得した。シンゴジラでも感じたことだけど、役者それぞれが元々持ってるイメージにぴったり当たる役回りすぎて、しかも彼らも与えられた役を完全に忠実に演じていて、それゆえに俳優や役の個性が抑えられてる。
この作品、完璧に計算された箱庭の中で駒のように配置されたキャラクターたちが巧妙に動かされて物語が進む。観客が各人物に必要以上に感情移入せず感情でドライブされないように、出てくる人たちが食べる描写もセックスも描かれるわりに彼らが何が好きで何が嫌いか、何を喜び何に悲しむのかは描かれない。貧富の差は関係なく全体的に人間ではなくてもっと脱臭された無機的なものを見ているみたいな感覚だった。上手いほど没個性になる仕組み。

とくにキム一家が自分たちと違う生活をしているパク一家の優位性に怒りも悲しみも向けず、格差をまるで害のない壁紙のようにそこにあって見えているのに気に止めず淡々としていることに肝が冷えた。「この世はなんて不公平なんだ!」と登場人物が叫んだりせず、格差自体に無頓着であるようにすら見える方が分断が深く、じつは現実社会に近くて、より残酷に思える。しかも半地下で生きる彼らはあくまで「半地下」であって「地下」にいる人とも線を引く。そして何かあったときに争うのはこの下層にいる同士で、構造そのものを疑問視したり、上層にいる人に理由なく怒りや憎しみを向けたりはしない。

パラサイトの原題は寄生虫だそうだけど、たしかに虫が何度も出てくる。物語の最初に彼は便所コオロギをただピンッと爪で弾くし、町の消毒の時は便所コオロギを殺してくれるだろうと窓をそのままにしたりするし、彼が冗談で怒ってみせる場面も虫扱いされたときだった。
その彼が「匂いの存在」を知ることでだんだんと自分が虫だったことに気づいていくのがこの映画のメインストーリーラインかなと思った。虫が自分が虫であることに気付いていき、気づいたとき虫扱いした人を壊そうとするけれど、結局は行き場なく虫らしく前よりさらに下層に潜ることを選び、外に出るチャンスがあっても二度と出てこなくなる。

他にも家父長性なのか男性性なのか重たくて離れないものとして息子のギウが抱える石や、くり返される半地下の匂いという大きなモチーフに一切触れないダヘの存在、おそらく先住民(インディアン)に寄った位置にいるダソン、なぜ死んだのがあの二人だったのかということまで、計算し尽くされてて気になる点がてんこ盛りなので考えるほどじわじわ引き込まれる。今までの作品よりもメタフォリックが進んでるから「文化の違いでわからなかったのかな」と思う部分がほぼない(わかってないところはあるかもしれない)。これは国籍を問わず受けるよなあ。これはこの先いつかポンジュノ監督演出のオペラとか見れるかもしれないな。