utopiapartment

about something too important to be taken seriously

ヴェルディ「シモンボッカネグラ」★★★★★


街にこのポスターが出てからずーっとわくわく待っていた、
トリノ王立歌劇場2013/2014シーズンの幕開け!

なんだかんだでシーズンオフもミラノ、ヴェローナ、東京、チューリッヒなどで見てたけど、いろんなとこに行ってもやっぱりわたしはレッジョがいちばん好きだし愛着あって、ああシーズンが始まったなあって感じる。
(終わったらすぐ家に帰れるし安いし居心地もいいし!)


開幕を飾ったこのシモンボッカネグラ、
ヴェルディ生誕200周年で張り切っているのか今日も絶好調な音楽監督ノセダとオーケストラが期待以上の見事な演奏を聴かせてくれ、前奏曲から音符が潮みたいに優しく場内に広がっていく広々としたいい音だった。

70年代のプロダクションを再度持ってきていたんだけど、装置も衣装もシンプルで色使いにセンスを感じるレッジョのオリジナルプロダクションの良さが今回もあって、今のレッジョの良さはこの時代から続くものなんだなあと改めて実感。背景には本物の水面と見紛うような日の反射にキラキラする海がずっと配置されていてこのオペラの海のにおいを美しく表現しているし、人物の配置位置がとくに細かく考えられていてきれいだった。

ヴェルディにしてはドラマチックさ抑えめなメロドラマっぽいストーリーと心にひたひた寄せてくる音楽、出演者たちもバランスの取れたよい布陣ですばらしいパフォーマンス。すべてが絶妙に合わせられて今までレッジョで見た中でも一二を争う良さだったなあ!バランスという意味では去年のドンカルロより良かった。低声の充実したオペラだし、今現在わたしのいちばん好きなヴェルディオペラだな。
(次点ドンカルロ、三位ナブッコ)


今回の配役:


このオペラがいいのはなんといっても、主役のシモンボッカネグラの人物像がかっこいいこと。オペラに出てくる男性なのにめずらしくまとも!よき政治家でよき父でよき人間!
今回そのシモン役はアンブロージョマエストリで、もう苦悩、威厳、弱気、気迫、のそれぞれこもった声、あの巨体の圧倒的説得力、見事だった。
オペラもヴィジュアル重視で細い人が多い現代だけど、やっぱり単純に身体の大きい人の声は深く広がって気持ちいいし、舞台空間で映えるよなあ!
バルチェローナとかアライモとかマエストリは舞台で観るとやっぱりかっこいい。

アメリア役のマリアホセシリも、見に行く前に初日のRAIラジオ中継で聴いてたときにはこもっててあんまり好きじゃない声かなあと思ってたのが劇場ではすごくのびるきれいな声で、生はぜんぜんちがった。コンディションの差もあったかもしれないけどすごくよかった!

代役でガブリエーレをやったテラノヴァも熱くなりやすく直情的でまっすぐっていうのがすごくよく現れてて、初めから高音気持ちよく出てて、今まで代役だと外れってことが多かったので、代役でもいいパターンを初めて自分で見て感動。テラノヴァって声もビジュアルもザ・イタリアーノて感じで、ガブリエーレみたいな熱血漢(で本人至って本気なんだけどちょっと抜けてる)がしみじみ似合うなあ。

適役パオロのマストロマリノもよかった。マストロマリノはBキャスでシモンてことは出ずっぱりということなのかしら。すごいなーー。パオロって悪役だけどイマイチ小物というか、完全悪に振り切れてないコソコソしたところがあるのでそこをマストロマリノは上手く三枚目的な魅力に変換してやっていたように感じる。演技派!
彼のシモンも見てみたかったなあ。ぜんぜん違ったりするのかなあ。

フィエスコ役のペルトゥージはカーテンコールでもとくに大きな喝采を浴びていて、見事だった。一番低い音が信じられないほどものすごくきれいに伸びたシーンがあって息を飲んだ。人間の声ってすごい。低い声でしか掴まれない体の場所があるなあって改めて思った。またフィエスコの人物像とこの声質がこれ以外考えられないほどあってて、マエストリとペルトゥージのデュオは何度でも聴きたいよさだった。

シモンボッカネグラはとくにバリトンとバスが終始大活躍なので、低声大好きなわたしにはたまらないオペラ。実在の人物を描いていることもあって人物像が相変わらず深いところもヴェルディオペラの良さ満載。ラストが静かに終わっていくのも好みだし、劇的さという点では他の作品に劣るんだろうけど、わたしは好きだなあ。
渋くていいねえ!と帰り道は夫と大絶賛だった。