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ロッシーニ「アルジェのイタリア女」★★★★☆

ロッシーニが21才という若さでしかもたった3週間ほどで作曲したというL'Italiana in Algeri。今回はトリノ王立劇場オリジナルの新プロダクション。舞台装置、衣装、背景、小道具、ほんとうにすばらしくこの劇場の株がぐんと上昇した。

配役は以下の通り


初めてここレッジョでオペラを観たのが2011のリゴレット。
物語がそもそも好きじゃない上に衣装、装置、背景、演出、すべてがしょぼくてまったく気に入らず、ああ地方都市ってこんなものなのかなあ、やっぱりパリとはぜんぜん違うんだなあ…とがっくりきた。この第一印象がものすごく強烈でレッジョ劇場への評価が底辺だったんだけど、最近思い違いだったと考えを改めつつある。

初回のがっくりにめげず観ていくうち椿姫、ドンカルロ、オネーギン、そして今回のアルジェなどだんだんと満足度の高い演目に出会い、スタートが底辺だった分評価うなぎのぼり。箱としても内容もスカラ座よりいいかもしれないと思うようになった。

レッジョは劇場がまず箱としてだんぜん落ち着く。
70年代建築で桟敷や上階がなくほぼ全部平土間でどの座席も見やすい。
広いクロークが入口正面にあり預けやすいし受け取りやすい。
バーがゆったりしていてソファ席がたくさんあって幕間過ごしやすい。
開演前にリコラキャンディがもらえる(地味に大きい!)
字幕が手元じゃなく舞台上部に付いてて見やすい。

そして、観客の質がいい!!
(ほぼ年配のアボナメント客なので上演中とても落ち着いて見られる。服装もカジュアルでなくドレッシーすぎずスマートで見ていてすてきな人が多い!今まで行ったすべてのオペラハウスで今のところいちばんすてき率高い)
観客の質についてはヴェローナの野外オペラに行ってさらに重要度を認識した。

そして今回のアルジェ、他のオペラハウスとのコプロダクションや外部のプロダクションを持ってくる演目が多かった中、レッジョ劇場専属チームによるオリジナルプロダクションを見てそのセンスの高さに感動。今までしょぼいなと思っていたものもよく考えればレッジョオリジナルじゃなかったりするし、2011のリゴレットはなんと一般公募による装置、衣装、照明etcだったらしい。知らなかった。レッジョ単独で作ったらこんなに素敵なの作れるんだ…わたし評価まちがってた。。




物語:

舞台はアルジェリア。
太守ムスタファは最近妻エルヴィラに飽きていて、代わりに美しいイタリア人女性を調達してこいと海賊ハーリーに命じる。妻エルヴィラはイタリア人奴隷リンドーロに払い下げて、自分は新しい妻がほしい思惑。
ところが難破船から誘拐されてきたイザベッラは偶然にもリンドーロがイタリアに残してきた恋人だった。勝気なイザベッラは妻になるなんてゴメンだと言い、エルヴィラと離婚する必要なんてない、代わりにリンドーロを自分の奴隷としてもらうと太守ムスタファに言い出して場は大混乱。

誘拐されてきたときイザベッラに助け出され叔父と偽って一緒にやってきたタッデオは、イザベッラは自分に気があると勘違いしている。太守ムスタファはこのタッデオに「カイマカン」という位を与えて抱き込もうとし、イザベッラと結婚できるよう取り計らえと迫る。一方イザベッラは妻エルヴィラに協力してもらって太守ムスタファとなんとか二人きりにならないようにし、脱出の計略を練る。

タッデオとリンドーロがどうやってイザベッラをムスタファから守り脱出するか話し合っていると、そこに太守ムスタファがやってくる。そこで2人はイタリアにあるとても名誉な「パッパターチ」をやらないかと持ちかける。「パッパターチ」は沈黙を守って食べ、飲み、眠るという儀式をする。もちろんそんなのはでっちあげで、その間にイタリア人みんなで逃げる作戦。さっそく用意されたごちそうを食べる前に太守ムスタファは誓いを立てさせられる。「どんなことがあっても沈黙を守り見て見ぬフリをし聞こえぬフリをする」

さて、ごちそうがどんどん出される中、イザベッラとリンドーロはイチャイチャ。でもパッパターチ中の太守ムスタファはそれもスルーしなくてはいけない。そう言われてしぶしぶ従うムスタファ。イタリア人たちはイタリアへ帰るための船の準備を整え、みんなで乗り込みはじめる。それに気づいた使用人たちに言われてもムスタファは「パッパターチ中だから」と一切取り合わずごちそうを食べ続ける。イタリア人たちの乗船が完了。イタリアに向け漕ぎ出して行く。そこまで来てやっと騙されたことに気づいたムスタファは妻に謝り、仲直りするのだった。





物語も音楽もとてもバカバカしく明るくて、観ているあいだ何度も声を出して笑った。
しかも舞台全体の色使いがほんとうに繊細で美しくて、どの場面もキラキラしていて引き込まれる。
パステルカラーの色とりどりのクッションを抱えたコーラスが固まって立ったり、移動したり、座ったりするところがとくに色使いが緻密に計算されていて見ているだけでしあわせになる。中東風の装置はシンプルなのに少しずつ柄を変えて組み合わされることによって奥行きと重なりの妙が生まれていて見事。舞台後方に作られた海は樹脂か何か使っているのか透明度が高くて日の光のように照明があたることで場面ごとに場所を変えて水面が輝き、本物の海みたいだった。
照明も、幕が上がってから終わるまで少しづつ日が傾く様子や、夜の柔らかい月光を微妙なグラデーションを付けて表現していて久しぶりに興奮するうつくしい照明に出会った!太陽や三日月が背景に大胆に配置されているのもきれい。

今回あとびっくり&イタリア魂を感じたのが、二幕。
幕間の休憩が終わってしばらくしてから場内にかすかにレストランの匂いがしてきて、最初勘違いかな?と思ったんだけど(わたしはたまに急に脳内で匂いが再生されてそれを実際のものと勘違いすることがあるので)、やっぱり勘違いじゃなく、する。バーの匂いなのかな?と思ったけどさっき行ったばかりだし、食べ物がおいてあるところもこんな温かい調理をしている匂いはしなかった。そばのレストランの匂いが換気口から流れてるのかな…?今までそんなことなかったのに…と思ってたんだけど、パッパターチのごちそうが運ばれてきて納得。本物!!
厨房を模した装置で鍋をふるうシェフも手つきがほんとっぽいし、運ばれてきたパスタにはしっかりチーズ削り器でチーズを削ってかけて食べている。あのいい匂いはこれを作っていたのかーーーと感動してしまった。ほんとおいしそうなにおい。


他にも小道具はイザベッラとムスタファがコーヒーを飲むシーンの銀のカップや匙、お風呂に入っている時の泡などもかわいかった!パッパターチのときには後ろのキッチンにあるものがいちいち本格的でオペラグラスでずーっと細かく見てしまったり、衣装もイタリア人のタッデオが最初にきている水色のチェックのスーツがすごく可愛かったり、中東風の衣装はやっぱり目に楽しいし、舞台上に出てくるものすべてが丁寧に考えて作られ、しかも美しくて、何度もため息をついた。

一幕フィナーレのストラッタはむちゃくちゃ勢いがあって愉快でばかばかしいし、二幕のパッパターチの下りもふざけてる感じが上手い!出演者はわたしはあまり好きじゃないなと思う声が多かったんだけど、リンドーロ役のシラグーザだけが突出して声が伸び、きれいな高音で聴いていてとっても気持ちが良かった。

あ!あとなんと言っても今回これを見ようと思った目的だった、ダニエレルスティオーニの指揮!やっぱり素敵だった〜 最後まで飛ばす運動量の多い全身とビロードをなでるようなレガートでの優美な左手の動き…それと関係ないけどめちゃめちゃきれいで光が反射してなおかつやわらかそうな髪ー!一緒に行った友人曰く隣にいたおじいさんもルスティオーニがものすごくよく動くことにびっくりして若いのかな…って言ってたとか。若いんですよー
ああああーーー舞台が素敵だから見たいんだけどルスティオーニ目当てだから彼も見たいしなんだかもう視界に美しいものが充実しすぎて贅沢すぎる時間だった。もっとルスティオーニを見たい…!(聞きたいっていうか、見たい…!!!

ちなみにルスティオーニはこれ


見終わってにこにこしてしまう楽しいオペラ。
やっぱり喜劇っていいなあ。あとロッシーニの派手でふざけてる音楽はやっぱいい!
わたしの中で決定的にレッジョすばらしい!脱帽!!と思わせてくれる作品だった。

今シーズンは残りあとドニゼッティ「愛の妙薬」を残すのみ。
まだ終わってないけどほんとうに今シーズンのレッジョはすばらしいもの揃いだったなー