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about something too important to be taken seriously

スカラ座ヌレエフ版「白鳥の湖」★★★★★

チャイコフスキーの音楽も、ドラマチックな物語も、振り付けも、ほんとうにすべてがよく出来た作品!
小さい頃に発表会ではないバレエをはじめて観に行ったのもたしか白鳥で、くっきり脳裏にそのときの舞台が刻まれている。とくに王子にロットバルトが黒鳥の正体を明かして鏡の中で白鳥が苦しそうに踊る場面。

今シーズンはスカラ座に客演でナタリアオシポワが来るので、オシポワ観たさにザハロワの日ではなくオシポワの日に行ってきた。オシポワがヌレエフ版を踊るのは今回が初めてらしい。仕事の終わった夫と駅で待ち合わせてミラノ行きのフレッチャロッサに乗り、終電で帰ってくるという強行軍だったけど行って大、大満足!

初めて生で観たけど、オシポワのゴム鞠みたいな跳躍力、ビンビンにキレるピルエット、スピード感、あふれる陽オーラ。そして彼女独特の濃ゆい匂いのしそうなやわらかなクセ。白鳥のときはこのクセがふにゃんふにゃんと脆い印象を与えて、黒鳥のときはびよんびよんと伸びやかで強い印象を与えて、もーーー目が離せなかった!楽しかった!

いちばん印象に残ったのは二幕オデットのヴァリアシオンのあとのコーダでオデットが羽ばたくような振りのところ。
すばやく、でもとても軽くやわらかくて、腕の動きに残像が生まれてまるきり本物の鳥が羽ばたいているみたいで、鳥肌が立った。テクニックもすごいけれど、しつこいほど悲痛なオデットやこれでもかとニヤリ顏をするオディールの表情、ほんとうに鳥になったかのような表現、ロットバルトの支配下で機械仕掛のように連れ去られて行くときの糸が引かれているような正確な動き…演技派!!
オシポワはインタビューで自分のリズムにあっている街はロンドンかミラノだと話していてミラノが気に入っている様子。今シーズンはあとマノン、来シーズンはジュエルズ、ドンキ、ロミジュリと客演でスカラ座にスケジュールされている。観たい!


物語の大筋:
悪魔ロットバルトによって白鳥に姿を変えられてしまい夜だけ元の人間の姿に戻れるオデットと取り巻きたち。魔法を解くには真実の愛の誓いが必要。彼女と出会った王子は恋に落ち真実の愛を誓おうとするが、ロットバルトの計略にかかりオデットとそっくりの黒鳥オディールに愛を誓ってしまう。魔法が解けず元の姿に戻れないばかりか一生白鳥にされてしまうオデットは悲しみに浸りながらも王子を許す。

結末はいろんなパターンがあって、
二人が湖に身を投げて天国で結ばれるバージョンもあれば、二人の愛がロットバルトを打ち負かして二人が生き返るハッピーエンド、またはロットバルトの前に無力な王子は何も出来ず湖に沈み、オデットは白鳥にされてしまうというバッドエンドもある。

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初版は悲劇で終わるのだけれど後にハッピーエンドの方が広まった。しかし初版を再評価したヌレエフ版の結末は悲劇。
そして、、、そこがいい!!

夢見がちで無力なバカ王子、なす術もなく他人に運命を任せるオデット、ロットバルトに言われるまま手足になるオディール、ロットバルト以外はぜーんぜん主体的に動かない。物語の中でロットバルトだけが王子の家庭教師を装って彼を洗脳し、裏ではオデットを白鳥にしていたぶり、黒鳥オディールを意のままに操って奔走している。そんなあくせく(悪事を)働いてるロットバルトに出会ってすぐ恋に落ちて愛を誓うかと思ったら他人の空似に惑わされて間違った愛を誓う王子と白鳥が「真実の愛」で勝ったらやってられなすぎる。「真実の愛」チート技すぎる。筋からいってどう考えてもロットバルト勝利。あと、せっかく苦しみや悲しみをほのかに秘めながら劇的に鳴るチャイコフスキーのすばらしい音楽にぬるいハッピーエンドは合わない!ラストでは胸にグサグサ来る旋律に震えながら衝撃と悲しみに浸りたい!

ラスト、オデットが白鳥にされて連れ去られるシーンではオデットが湖に沈んだと思ったら羽根だらけバッサバサのマントを羽織らされて鳥の姿にされワイヤーで宙吊りになって現れるのが派手で衝撃的ですごくいい。すごく満たされた。

それにしても相変わらずスカラ座のコールド…!!ピシッと揃ったコールドで見られないは残念だったけど、ほんとみんな苦手なことを一生懸命頑張ったんだなと思った(…というかこのイタリアのダメダメでも頑張ったんだよね!って許せる感じなんなんだろう)それにしてもなぜかコールドで踊る男性ダンサーが明らかに年配の人たちばかりで、彼らの今までとこれからがすごく気になった。男性ダンサーの場を増やしたヌレエフ版は男性ダンサーだけの群舞もあってとても迫力あっていいんだけど、どうもそっちが気になってしまった。

今回はオシポワ見たさに2列目かぶりつきで見たので、次回白鳥を観るときはうつくしさが見込まれるコールドを有する劇場でバルコンから観たい。