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about something too important to be taken seriously

ヴェルディ「リゴレット」(東京)★★★★★

グスタボドゥダメル指揮、イタリアが誇る名バリトン、レオヌッチ主演。そして演目はレオヌッチの当たり役であるリゴレット。
見たい理由が三つも揃ってしまったら抗いきれない。日本に帰って観てきた。スカラ座来日公演。




まず、スカラ座オケがいまだかつて聴いたことのないようなあまりにすばらしい演奏で言葉を失った。隣の夫とともに衝撃。こんなにやる気に満ち溢れたスカラ座オケ見たことない…!普段のあれはなに!なんなの!
外国だからなのか日本だからなのかドゥダメルのコミュニケーション能力なのか、こんなに出来る人たちだったなんて… ショックすぎる。

ドゥダメルの指揮、前奏曲からエネルギーにあふれた激しく力強い音で、ヴェルディの音楽のドラマチックな部分が他の人とはちがう形で強調されていてすごくよかった。新鮮だった。ヴェルディが若返った感じというか…
重唱の部分とか歌のハーモニーを活かすところになるとまだいまいち掴めてない感じだったので、これはオペラっていうよりやっぱりコンサートで純粋に楽器だけのオーケストラを振ってるのを聴きたいなあ!
ほんとうに音がギラギラしてて力があって、ああー素敵だなあもっとこの音楽を浴びていたいなあって思った。生で聴いてほんとうによかった。迫力。

そして、ヌッチ。最初から最後まですべてを支配しギランギランに輝き、他の出演者の印象が消されてしまうくらい眩しく、なんかもう彼の一人舞台という感じだった。とてもリラックスしていい意味でやりたい放題という感じ。
わたしはいちばん好きだったのは「鬼め悪魔め」の歌い出しの、平気な振りを装っていつものように道化を演じようとするララッララーのところ。なんて上手いの!
心の動揺と、それを取り繕い周りに知られまいとする必死さと、娘が心配でたまらないつらさがフラフラした足つきと声で完璧に表現されてる…
実際に本人が老いてきていることも上手く利用しているというかこちらが勝手に感じ取っているというかで効果的。

最初に出てきて明るい道化を演じるところは本人が普段インタビューやカーテンコールなんかで出すようなイタリアの陽気なおじさんの感じがふんだんに活かされているし、また一方で、娘を傷つけられ最後には失うという、不安から怒りへ怒りから悲しみそして絶望へと変化していくリゴレットという人の感情の動きすべてが彼の姿形や人生経験やテクニックや声に載って余すところなく表現されていてこれが当たり役っていう意味がすごいわかった。彼の魅力ぜんぶ詰まってる感じ。

前にも感じたけど、ヌッチって舞台の上で演じているというよりも、その時間まるで彼自身と役が一体化してどちらでもない一人の人物がまるでそのときだけそこで生きているみたいに思える。
だからこそ、他の出演者から浮いていると感じるんだと思う。あまりに本当すぎて。そこがすごい。

リゴレットはもともと苦手な演目なので、ヌッチで聴いたら好きになるかなあと期待して行ったんだけどやはり見事に好きにさせてくれた。そして自分の思っていたより深い作品の意味、役の意味を今回も教えられたって思う。舞台の上にいるリゴレットという人物が本当に一人の人間に感じられるから、ジルダの犠牲がリアルに思える。

今回はリゴレットの、娘を大事にしすぎて他には何もいらないという過剰なまでの愛し方が娘にも影響して結果的に娘を殺してるんだなあっていうことを感じた。
リゴレットは娘のためにいつでも本気で死ねそうな愛し方をしてる。その愛にしか触れてなくて外界に出してもらえないジルダは愛情っていうものをいろんな種類見てないから、だから最初に好きになった伯爵のために後先考えず死ねちゃうような、リゴレットに似た愛し方をするんじゃないかなあって。
今までは、どう考えても異常な過保護だしジルダ生涯閉じ込められて生きていい加減な伯爵にやられるわ彼のために死ぬわ一人大損じゃん!リゴレットが死ぬならまだわかるけど!って思ってたけど、リゴレットとジルダの間にある因果のようなものが今回はヌッチのリゴレットによって感じられたから、ジルダが死ぬことが物語の中で必然のように感じることが出来た。

マントヴァ伯爵はフランチェスコデムーロ。代役で緊張したのか一幕は硬かったけれど二幕からは声が出ていた。ジルダのエレナモシュクといい、スパラフチーレのツィムバリュクといい、彼と言い、正直可もなく不可もなくという感じ。ヌッチの光に当てられて少し陰ってしまっていて役者がちがうと感じた。
マッダレーナはオペラリア出身てあって注目してたんだけど、マッダレーナというかカルメンみたいだった。



イタリアと違って休憩二回も入るし30分も休憩するし、歌い終わり毎回最後ですかというほどの拍手喝采でなかなか止まないからいったんすべてがストップしちゃってちょっとガラみたいだったのが残念だった。歌の発表会じゃなくて一続きの物語だから流れは止めないでほしい…日本ではオペラがすごく特別なものだからなのかなあ。

でもでも全体としてはとってもいい夜だった。家族で行ったのでよい仕上がりの作品で一安心だったし、普段あまり会えないみんなで感動を共有出来たのがすごく嬉しいし、一緒に行けてよかった。こういうのはほんとプライスレスだなあ。