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about something too important to be taken seriously

週末スイス旅行

先々週の土日、スイスのチューリッヒに行ってきた!


トリノからチューリッヒまではミラノで乗り換えて電車で約5時間。
スイスとイタリアはアルプス山脈で隔てられているので車窓から山が見える。もうすっかり雪が消えていた。道中はコモ湖などいくつか湖も通るし、スイスに入ってからはアルムおんじがいそうな山小屋が山の斜面にいかにもな感じで建っていたりして普段とちがう景色に俄然わくわくが増す。電車の中ではiPadにDLしておいた本と映画を読んだり観たりしてあっという間だった。そろそろiPadのない移動はもう考えられないなあ。景色がきれいなので写真を撮りたかったのだけど、残念ながらイタリアンクオリティーで窓が汚れすぎてて写真撮れなかった。イタリア人、おうちの窓はピカピカなのに…ぜひ窓を掃除してほしい。

着いたのは土曜の19時くらい。まだ明るい。
翌日オペラを観るのが目的でその翌朝には帰る予定なのでほんとちょこっとの旅行だったんだけど、あまりメジャーな観光地というわけでもなく街がのんびりしてるせいなのかとてもゆったり楽しめた。そして何より、チューリッヒ初めて来たんだけどもうとにかく街がクリーーン!!
どこもかしこも清潔だし、整然としていて、道には犬のフンどころかゴミひとつなく、駅から乗ったトラムの中も外もピカピカ。湖や川は底が見えるほど透み切っているし、道路工事現場までがまるで映画のセットのようにきれいすぎてしばし凝視。

フランスとイタリアに住んで7年くらい。そのあいだに近辺の国も旅したけど、こちらに適応するために蓋をして封印した箱が開く思いだった。「日本じゃないんだからしょうがない」と言い聞かせていたことが日本じゃなくたって可能であることを知ってしまった。清潔さが保たれたヨーロッパの街並みなんて東京ディズニーシーでしか体験したことなかったのに………!!

泊めてもらった家はベルビューっていう湖のすぐそばにあって、湖では白鳥たちが優雅にプカプカしていた。アパートがまた広くて清潔で水道の水が冷たくて気持ちよくておいしくて!街中にある噴水のような場所も飲用水でこのようにおいしいらしい。オペラハウスもアパートから徒歩圏内で快適。あらゆることがスムーズできれいで夢を見ているみたいな気持ちになる。というか、あれだ。夢の王国冒険の海っていうあれ。あれとしか思えない。海ないけど。もう、テーマパーク。


泊まるところにひとまず落ち着いて、現地に住んでる友達と湖のそばで待ち合わせをした。
昔の武器庫を改装した大きなビアホールみたいなレストランで夕食。小さい頃たまに銀座のライオンっていうビアホールに家族で行ってたけど似た雰囲気だった。おいしいソーセージが食べたかったんだけどソーセージだけじゃなく、ザワークラウトも、ポテトも、お肉ときのこの白ワインクリーム煮も、スペアリブもいろいろおいしくてイタリアにはない料理にとろける。お店の雰囲気は独特だし、サービスもカジュアルでよかった。

チューリッヒは100年以上前からあるヨーロッパ最古のベジタリアンレストランがあったりベジタリアンレストランがいくつもあるみたいで、夕飯のあとそのひとつで一杯飲んだ。わたしはリンゴとかレモンとか入ってるミックスジュース。ビュッフェも種類が豊富でドリンクもアルコールはもちろん、ジュースやラッシー、チャイ、お茶、コーヒー、それぞれのメニューがいろいろあって飲めない人もうれしい。住んでたらぜったい通うなあ。


(気に入ったので次の日も行った)

日曜は昼頃のんびり起きて、まずはきのう教えてもらった老舗パティスリーSprungliでブランチ。と言ってもブランチメニューはすごい値段だったので、一番食べたかったルクセンブルグリ(マカロンの小さいの、ここの名物のひとつ)と紅茶を頼もうとしたら、日曜は持ち帰り用の17だったか18個だか入りの箱しかないと。なのでその箱を注文。あとは入口のショーウィンドウにあったおいしそうなサーモンのカナペ。これがぜんぶおいしかった…!

ルクセンブルグリはぜんぶは食べられないのでひとまずレモン、マンゴー、グレープ、シャンパンを食べたんだけど、ひとつひとつが小さいのでちょうどよく一口で食べられて、外側部分サクサク、中のクリームは強すぎず繊細で自然なあじわいでシュワっと溶ける絶品。
パリにいた頃いろいろマカロンは食べたけど、わたしここのが今まで食べた中でいちばん好きかも。残りはあとでだいじに食べようと思ってカバンにしまった。この日、泊まってる家に戻ってから冷蔵庫に入れてそして出発の朝にそのままわすれて帰ることになるとも知らずに。



そのあとはシャガールとジャコメッティが作ったステンドグラスがあるというフラウミュンスター教会に。
入ってみてシャガールのはもう見るからにシャガールでわかったんだけど、ジャコメッティのは…わからない。。シャガールじゃないものは二つあるのだけれど、どっちもいまいちピンと来なくて謎なまま去った。あとで知ったことにはここのステンドグラスを作ったのは我々夫婦の好きなアルベルトジャコメッティではなくアウグストジャコメッティで、従兄弟だったらしい。ジャコメッティってアルベルトとかアウグストとかジョバンニとか意外と複数人いて紛らわしいな!でもシャガールのはとても素敵だった。好みではないけど色づかいが透けるガラス素材に合った作風だからやっぱり映える。(写真撮影禁止だったので残念ながら写真ない…)

次に街全体と晴れていたらアルプスまで見えるというグロスミュンスター教会に行ったんだけど、塔に登るのは有料でスイスフランの現金のみの受け付けだったのであきらめた(スイスフラン持ってない)。いつもならユーロも受け付けてるんだけど今日は用意がなくて…ととても申し訳なさそうに言われた。この申し訳なさそうな態度けっこう何度か遭遇したんだけど、あたらしい…!!!!!!!今までこんなたいして謝る必要もないような場面で恐縮した態度の接客に出会ったことがあるだろうか。いや、確実にない。ここはほんとうに欧州なのかしら。さすが四方八方を大国に囲まれてホスピタリティ(ホテル)というジャンルを確立した国なだけある。


景色を見るのをあきらめて外に出たはいいけど、やっぱり高いところからの景色見たい。iPhoneで見てたらUSBポリバーンという真っ赤な可愛いケーブルカーが街の中心から出てるらしく、しかも市内のバスやトラムのチケットと共通で乗れるらしいのでGoogleマップで探してみた。小道がかわいいのでなんとなくそっちを目指しながら街を散策。可愛い看板や、お花がたくさん浮かんだ噴水や、いろんな色や柄の旗みたいなのが吊ってある通りを見つけたりして、歩いているとのどかな小さな村の雰囲気。

しかし、ポリバーンの駅に着いてみたら日曜日は閉まっていた。ポリバーン…乗りたかった…

http://www.funimag.com/suisse/polybahn01.htm



時間は午後2時半くらい。
わたしたちには他に目的地があるのであきらめてそっちに向かう。


http://thingstodo.viator.com/zurich/the-centre-le-corbusier/

ハイディウェバーミュージアム、ルコルビュジエセンター。
きのう会ってた友達から、泊まってるすぐそばにコルビュジエが亡くなる前最後に建てた建物で内部に作品を展示しているのがあると聞いて来てみた。調べたらここは7-9月の土日だけ開館、しかも開館時間も14-17時の3時間だけ。たまたま行ける時期とかぶっててラッキー。建物は湖のほとりの広い公園に隣接していて、向かう途中ビーチグッズやクーラーボックスを抱えたたくさんの人たちと道で一緒になって同じ方向へぞろぞろ歩いていった。短い夏の間寝っころがって日焼けしたりお酒を飲んだりして楽しむエリアっぽい。公園のそばは立派な門付きのいかにも豪奢なおうちがたくさん並んでいた。

建物はとっても小さいのだけれど屋上庭園とかピロティとか横長に広いガラス窓とか、コルビュジエの原則を守った建築。濃い赤や緑色や黄色の配色でおもちゃみたいな小さなドアや階段、外へ出る扉が忍者屋敷みたいにスライド式になってて楽しいー遊び場みたいなおうちだなー!何人かちびっこも来てたけどみんなめいめい楽しそうに探検していた。


こんな感じでドアが丸っこかったり可愛い。

ハイディウェバーというのはコルビュジエの家具を商品化する仕事をしていた人だそうで、個人的な親交も深く、ごくプライベートなものだというコルビュジエの絵画やリトグラフのコレクションを持っていて中に展示してあった。ピカソやジョルジュブラックみたいなキュビズムぽい絵画もあっておもしろい。建築って空間をデザインするものだからキュビズムのデコンポジションみたいなのがやっぱり興味引いたのかな?ぜんぜん知らなかった一面。家具デザインに関する考え方や変遷をテーマにした展示もあって、夫は熱心に見てたけどわたしはカッシーナ社から出したコルビュジエデザインのひとりがけのソファの座り心地を主に楽しんだ(休憩)
座り心地やっぱり極上…だいぶ長い時間立てなくて座り込んでぼーーーーっとし、一通りぜんぶ見終わったあとにももう一度座りに行った。椅子はほんとうに明確に値段と座り心地が比例するよなあ。あああーこの椅子が買えるようになりたい!!


http://www.cassina.com/portal/page/portal/new/webpages/cassina/catalogue/product?p=code:CS_002%253bis_finder_result:1&lang=it



チューリッヒに来る前、オペラハウス以外に行きたいと思ってたのがチューリッヒ市立美術館。ここはアルベルトジャコメッティの大きなコレクションを持っていて、アルプスを描いた画家として有名なセガンティーニの作品もいくつかあるのでぜひ来たいとおもっていた。
閉館が18時なのでトラムで移動。チューリッヒそんなに大きい街じゃないし、行きたかったところがぜんぶ歩けるくらいの距離に位置してたのでそんなに急がなくてもすぐ移動できてよかった。

閉館までだいたい2時間くらいいたと思うのだけど、ちょうどよくじっくり観てまわれた。絵画は19,20世紀のものが中心で、ゴッホ、セザンヌ、モネ、ルノアール、ピカソ、シスレー、シニャック、ムンク、ココシュカ、マティス、とかからミロ、カンジンスキー、パウルクレーなどだいたい2,3点ずつの量で適度。ロダンの彫刻もあった。
上階ではモダンからコンテンポラリーも同じくらい1,2点ずつくらいで展示されている。ロスコの絵もあったり、ポロックとか、ヘンリームーアのけっこう大きな彫刻もあったり、多すぎずいろいろな人のものをちょっとずつ楽しめるサイズ。パリのオルセーの半分くらいの量じゃないかな。ライティングもよく計算された見やすい照明だし、街と同じように展示も整然としていて動線がいい。数時間で愉しむのにぴったりのいい美術館だった。ここも住んでたら通うなあ。
あとなんと言っても人がいない!!天井が高く広い空間にそれぞれの作品がスペースを贅沢に使って配置されているのだけど、ほとんど他の人とバッティングしなかったので広い空間で作品と心ゆくまでひとりで対峙出来て至福。 日曜の午後でこのゆったり感。すばらしい。



目当てだったセガンティーニ。壁一面にまずこの大きい作品(アルプの放牧地)があって、前にソファが置いてあってだれもいなかったのでしばらくじーっと座って見た。初めて実物を見たけど、不思議な絵。スーラやシニャックの点描みたいに細かく執拗に違う色をのせているけど、光の陰影が深いのでのっぺりしていなくて立体的。光をはっきりと描いているのに光でどこかが飛ぶことがなくきっちりきっちり描いてある。ひとつひとつの筆のあとがよく見えるので、機械的に綿密に計算している感じと、手業のどことなく懐かしい感じが同居していて、他で見たことがない絵だなあと思った。

部屋には小さなものを合わせて5,6点くらいあって、このくっきりはっきりした真昼の山頂の絵もあれば、暗い影の方を描き込んだこの夜のアトリエのような絵もある。

セガンティーニは北イタリア生まれで、幼い頃母を亡くし、出稼ぎでミラノに父とやってきて親戚の家に預けられるも不良化して感化院に入ったりして不遇な少年時代を送る。でも感化院の院長に絵の才能があると励まされてミラノのブレラ美術学校に入る。が、いまいち反抗心が強すぎたのか学校側と喧嘩して途中で飛び出してしまい、独自の画法を突きつめて家族とスイスに移って最終的にはスイスの山の上で絵を書いてる途中に亡くなるという、激動の人生。

今ではミラノのそのブレラ美術館や近代美術館に作品があるみたいなので行って見てきたい。ミラノに行く時はなかなか美術館に行く余裕がなくていまだにブレラ美術館は行けてない。そしてセガンティーニの亡くなったサンモリッツにはセガンティーニ美術館があるらしく、ついでにスイス有数の高級スキーリゾートらしいのでぜひ行ってみたくなった。



それと、一番の目的だったアルベルトジャコメッティ。ほんとうにたくさんあった。さすがのコレクション。進んでも進んでも次々ジャコメッティ。中でも気に入ったのはこれ!Le Chariot。

アルベルトジャコメッティの作品ってこんなにうっすーくほっそーく針金みたいなのに足だけしっかり大きくて、どんなに細くても柔らかく頼りない印象を受けない。すくっと自立している。その安定感が好き。

中にはこんなうっすーーい正面から見たら紙みたいにぴらぴらな頭があったり(でも横から見ると全体像はしっかり作られてるの)

巨大な展示ケースの中にさらに台があってその上にまたもう少し小さな台があって最終的にはその上によく見るとちっちゃーーい米粒みたいな人型があったり、細く、小さく、うすくなっても変わらずしっかりと在る、というかむしろそうすることでどんどんそこに在ることが強調されていくように感じられるのが、見れば見るほどおもしろかった。

残念ながら館内の説明がぜんぶドイツ語っぽい言語で書かれていていろいろ書いてあったけどなんんんにもわからなかった。かなしい。しかし、ジャコメッティはこれらの細長い人型の元として人間を遠くから見た時の姿、出現するときといなくなるときのどちらとも取れる遠く霞んだ人影をイメージしていたというのを読んだことがある。
彫刻(というかオブジェ)はたいていある瞬間の美、生き物ならばその生き物のすべてではなく一部の美だけを捉えていて、結局生きてる対象に比べるといつか飽きがきてしまい、おもしろくない。だからこそ出現から消失までを感じさせることで彫刻に連続性というか永続性を与えようとしたのだという。もっと詳しく資料を読みたいのだけど美術関連のものはほとんど電子書籍で出てなくて、すぐには手に入らないのが悲しい。大きくて重たいのが多いし嵩張るので美術書や画集ほど電子化すべきだと思う!

あ。あと、そういえばアルベルトジャコメッティの父ジョバンニジャコメッティはセガンティーニの弟子で、制作半ばで亡くなったセガンティーニに代わって絵を仕上げたりしていたというつながりをあとから知ってびっくり。間接的にこの二人はつながってたんだなあ。

ということで夜オペラを見るまでにだいぶチューリッヒの街を堪能できた。ついでにアパート前のイタリアンでパスタを食べてスイスのイタリア料理がどんなものか確認しつつ(ちゃんとした茹で加減だった!)腹ごしらえを済ませてオペラハウスへ向かった。演目は2015年の引退を宣言している歌姫エディタグルベローヴァ主演、ベッリーニのLa Straniera。

オペラに関しては別記事で。





それにしてもチューリッヒ…すてきなところだった。お金さえあればじつに暮らしやすそう。そしてアパートの冷蔵庫に置いてきたSprungliのマカロンが返す返すも惜しい。あとで調べたらオンラインショップがあったのだけれどこんなに近いイタリアには配達していないのだった。ここよりずっと遠い日本にはしているらしく、イタリアの郵便事情が呪わしい。そして帰りの電車が出発した中央駅構内にもお店があったらしく…買えたらよかったけど時間がなかった…!もしいいディールがあったら次の帰国はチューリッヒ経由のスイスエアで帰って乗り継ぎでマカロン買う。