utopiapartment

about something too important to be taken seriously

ロンドン旅行のはじまり

小学校の頃、ロアルドダールの「チョコレート工場の秘密」という本はいちばん好きな児童小説のひとつだった。

初めタイトルから「人体のひみつ」とか「宇宙のひみつ」「自動車のひみつ」とか科学教育を目的とした類の本かと勘違いしていたのだけど(わたしの人生は恐ろしい数の勘違いで出来ている)、読んでみたら中身は見事なファンタジーで、科学も好きだけどファンタジーはもっと好きなのでいっぺんで好きになった。

好きなあまり丸善で原書を買ってむりやり英語でも読んだ。初めて英語の本をぜんぶ最後まで読み切ったのはこの本だったと思う。映画化されたのももちろん観ている。70年代に作られたジーンワイルダー主演の「夢のチョコレート工場」。日本では未公開だったらしいけどたしか小学校で上映会があった記憶がある。テレビでも何度か放送されているはず。

チョコレートルームのシーン抜粋→
http://youtu.be/RZ-uV72pQKI

この作品は70年代なだけあってCGもなく舞台装置みたいな簡素なセット。あまりお菓子が美味しそうでなく、ウンパルンパはオレンジ色に塗りたくってて、映画序盤はホラーかと思うほどの暗い恐ろしい雰囲気にあふれている。(ただ、音楽はすごくいい)
2000年代になって児童向けファンタジーの映画化がたて続けにされるのを見るたび、「ああーチョコレート工場こそ現代の技術で作り直したらいいのになあー」とずっと思っていた。ロードオブザリングもいいけど、ライラの冒険もいいけど、ナルニアもいいけどチョコレート工場もいいのになあ!と、ティムバートン版「チャーリーとチョコレート工場」制作が決まるまでずーーーーーーーっと思っていた。ものすごく長年思い続けていたのでジョニーデップと「ネバーランド」の子役の子出演で映画化と知った時のあの興奮はわすれられない。布陣を見ても予算もたっぷりありそう!CGばんばん使えそう!ほんとうにうれしかった。

しかし夢は砕けた。
いざ公開されたのはパリに住んでいたときだった。アバンプレミアで観ようと試みたけど人数オーバーで観れず、公開初日の朝映画館に行った。観ているあいだにもしかすると食べたくなると思ってチョコレートを鞄に用意して行った。住んでたエリアはおじいちゃんおばあちゃんばっかり住んでるエリアで、国際会議用かなんかで作られた巨大な施設の中にけっこうな設備のシネコンが入ってるんだけど人がぜんぜんいない。貸し切り状態でシーンとした広い映画館で真ん中を陣取った。
オープニング。チョコレートが作られて行くCG。ああやっぱり現代の技術ってすごい!わたしの興奮は最高潮に達し、そしてその後急速に冷え込んで行って観終わる頃にはがっくりきていた。なにこれ。なにこの原作へのゼロリスペクト。
ティムバートン色が強すぎるし、原作にないサイドストーリーが加えられてMr.ウォンカの変人ぶりがおかしなベクトルに向かっていて気持ち悪い。ウンパルンパの解釈もひどい。たとえセットが簡素でも前作の方がまだよかったという思いもよらない感想だった。技術があってお金があって出演者やスタッフが有名でもここまでの駄作が作れるなんて…!!そして何より、それでもヒットしてしまうであろうし、それによってこっちが物語としてスタンダードになってしまうかもしれないことが悲しい。あんなんじゃないのに!もっともっとすばらしいのに!それ以来あの映画の話を見たり聞いたりするたびに暗い気持ちになった。




しかし!
あれから7年、またしても聞き逃せないニュースが入った。
「チョコレート工場の秘密」が今度はロンドンウェストエンドでミュージカル化されるという。本場イギリスで…ミュージカル…!!

もしかしたらまたがっくりするかもしれない。子供の頃に読んだものはときに美化されすぎているし、イギリスの文化の中で育ってないわたしには勘違いしていた部分が多くて、ほんとうはああいうブラックな物語なのかもしれないし今度もそうなるかもしれない。
二本の映画どっちもにがっくりさせられたわたしは不信感(制作側へのというより、自分の思い込みが過ぎたんじゃないかという自分への不信感)を持ちつつも期待しないではいられなかった。二本の映画はアメリカでアメリカ人によって作られたものだったけど、今度はあの本が生まれ、たくさんの子供達が読んで育っているイギリスで、イギリス人の手によって作られる。しかも振り付けはあのビリーエリオットとマチルダのピーターダーリン。初めてロンドンでビリーエリオットを観たときの全身にビリビリきた感動はわすれられない。彼の振りつけるチャーリーと子どもたち、観たい。

公開は来年の5月から。わたしは予約が始まる日をメモして販売開始の日に速攻でチケットを取った。ロンドン行くしかない。ついでにロイヤルオペラハウスのスケジュールを確認したら同時期に一度は生で聴きたいテノール、フローレスが出るロッシーニの「湖上の美人」も予定されている。これはもう、ロンドンが呼んでる!!!わたしはそっちも発売開始日に速攻チケットを買って、そして2013年の出発の日を待った。