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about something too important to be taken seriously

ベジャール振付「ボレロ、ライト」★★★★★


人は生まれると自然と踊っていて、人が集まると踊っている。
昔からそうやって来たんだなと思わせる原始的な儀式を見ているような印象と、人間の肉体そのものの美しさ。
人が組むことで生まれる会話のようなエネルギーの交換、
脈を打ち動いているものの発するエロス。
踊りというものの本質的な意味、根源を見せられた夜だった。
ほんとうにすばらしかった。

そもそも他の踊りではこれらを感じないのはどうしたことだろう。
今回ベジャールバレエ団の舞台は生では初めてだったのだけれど、
もっと他も生でぜひ観たい。

構成ははじめにイタリアとアメリカを舞台とした「光」という意味のライトという作品、
それから休憩を挟んでラベル作曲のボレロを使った、
その名もボレロという有名な作品の上演だった。
前半のライトも満足度の高い舞台で、
とくにライト役のカテリーナシャルキナと女性役のエリザベットロス二人が組んで踊るシーンは両方がやわらかく絡み合うのがめちゃくちゃエロチックで美しくて興奮した。のだけれど、そのあとのボレロの衝撃が異常だったのでライト全体の印象は残念ながら霞んでしまった。


http://www.teatroregio.torino.it/en/attività/festival-e-altro/il-regio-racconigi/béjart-ballet-lausanne

いままで映像でボレロは見たことはあったけれど、やっぱり舞台は別物。
この、映像とライブのちがいってすごいなとあらためて実感した。
たとえただ座っているだけでも、舞台に関してはその場に居合わせるということは、ただ眺めてるだけじゃなく参加していて、能動的な行為なのかもなあ。


ボレロは舞台の中心で踊る「メロディー」と
それを囲む大勢の「リズム」からなる。
ボレロはジョルジュドンが踊ったものが有名だけれど、今回エリザベットロスが踊るメロディーを見て、これは断然女性がメロディーを踊り、男性たちがリズムを踊るのがいい、と思った。
三宅一生の「ダンサーは肉体そのものがいちばんうつくしい」という意見で、もともとは別の衣装だったものをあるとき上半身裸にタイツという衣装に変えたらしいけれど、たしかに裸であることでいつまでも時代を超えていけるものになっているとおもう。
50年前の作品だなんて感じられない。

また、今回パリオペラ座のオレリーデュポンが特別に一日だけメロディを踊るという情報があってそっちに行くか悩んだのだけれど、結果的にはエリザベットロスのメロディを観られてよかった。
ベジャールの意思を引き継ぐ彼女のボレロはこれぞベジャールバレエ、というものだったのではないかと思う。

肉のやわらかさ、熱、人が発するエネルギーのうねりを感じさせる踊り
人々を先導するようにも喰われていくようにも見える中心位置、
目が釘付けだった。
メロディーが踊る赤い舞台が焚き火のように見えて、
そのまわりを囲む男性のリズムたちは宗教儀式でトランスしている人々のようで、自分も地面に座して儀式に集っているようなきもちだった。


久しぶりに心から拍手を送りつづけた作品。
アンコールが5回6回とつづき、観客たちが席を立ってステージへ押し寄せてスタンディングオベーションするという大興奮のエンディングだった。
ほんとうに行ってよかったーー

それにしてもボレロが朝から晩まで一週間以上頭の中で止まないのはきつかった。
ラベルもたいへんな曲を作曲してくれたものである。