utopiapartment

about something too important to be taken seriously

プシュケーとアモーレ

街中でポスターを見て気になっていた「プシュケーとアモーレ」展、
こないだ買い物途中歩いてたら偶然前を通ったところが会場で、とくに急いでないし入っちゃえーとパッと入って見てきた。場所はPalazzo Baroloという17世紀に建てられたお城。


プシュケーというのはギリシャ神話に出てくる人間のお姫様で、アモーレは人を恋に落とさせる黄金の矢と、恋が出来なくなり不幸をもたらす鉛の矢を持っている神。ローマ神話のキューピッドという名でも知られている。

美術品で2人を題材にしてるものはアントニオ・カノーヴァの「キューピッドのキスで生き返るプシュケー」像や、

ウィリアム・ブグローの「アムールとプシュケー」などが有名。



プシュケーとアモーレの物語を簡単に書いてみる。

むかしむかしあるところに王様とお妃様がいました。2人には三人の娘がありましたがとくに末娘のプシュケーは類稀な美しさで、美の女神アフロディーテがやきもちを焼くほどでした。
アフロディーテは人間の分際で自分に劣らぬ美しさを持つプシュケーがゆるせず、子孫を作れないよう鉛の矢を打つように息子のアモーレに命じます。が、いざプシュケーの姿を見たアモーレは彼女の美しさに動揺しうっかり自分を黄金の矢で傷つけてしまい、プシュケーの恋の虜になってしまいます。どうしてもプシュケーを自分のものにしたいアモーレは、娘を誰に娶らせたらよいかと悩む王様に「怪物の生贄として差し出せ」という神託を下し、生贄として岩に捧げられたプシュケーを風で連れ去ってしまいますが、神である自分の姿を人間であるプシュケーに見せることは出来ません。そこでプシュケーを美しい宮殿に住まわせ、自分の正体を隠して夜ごと暗闇にまぎれて現れました。

自分の願いはなんでも叶えてくれとても優しい、しかし絶対自分に姿を見せてくれない夫。プシュケーは実家に戻ったとき姉たちから受けた助言(というか「目も当てられないほどの凄まじいブサイクにちがいない。寝ている間に蝋燭の灯りで姿を確認して、なんなら小刀で殺してしまえ」という嫉妬によるそそのかし)もあり、ある夜眠っているアモーレの顔を一目見ようとそっと蝋燭を近づけます。そこにあったのは背中に大きな羽根を生やした神々しいアモーレの姿でした。驚いたプシュケーは誤って蝋燭のロウをアモーレの上に垂らして目を覚まさせてしまいます。火傷を負い、姿を見られたアモーレはこれ以上そこにいることが出来なくなり「愛と疑いは共に暮らすことが出来ない」と言い残して飛び去ってしまいます。

羽根がないプシュケーは後を追うことが出来ず、自分の過ちに落胆しながらアモーレの姿を探して世界を彷徨います。
自分の命令に背いたばかりか知らない間に息子がとんだ勝手を働いていたのを知ったアフロディーテは激怒。プシュケーを捕らえます。アモーレに会いたいと訴えるプシュケーに耳を貸すはずもなく、アフロディーテは無理難題をふっかけてきますがプシュケーはことごとく動物たちの助けを借りてクリアしていきます。最後の試練として、アフロディーテはプシュケーに地獄へ行き冥神ハデス(ローマ神話のプルート)の妻ペルセポネ(ローマ神話のプロセルピナ)から自分のために美を分けてもらってくるようにと命じました。愛のために死ねということです。

アモーレに会うため迷わず死を選んだプシュケーにペルセポネも同情し、決して開けないという約束で美の箱を渡して地上に帰してくれました。ぶじもらった箱をアフロディーテの元へ届けようというとき、プシュケーは水面に映った自分の顔を偶然見てしまいます。そこにあったのはすっかりやつれてしまった自分の姿でした。これではアモーレに再会出来てもあきられてしまうのではないか…不安にかられたプシュケーは思わず美の箱を開けてしまいます。

ペルセポネが渡したこの箱、その中に入っていたのは美ではなく「永遠の眠り」でした。箱を開けてしまったプシュケーはその場で永遠の眠りについてしまいます。そこへやっと傷の癒えたアモーレが通りかかりました。数々の試練を乗り越え自分を追い求めるプシュケーの一途さに打たれたアモーレは約束を破られた怒りはわすれ、眠りをかき集めて箱に戻し愛のキスでプシュケーを目覚めさせます。そしてアモーレはユピテルに自分たちの想いを遂げさせてくれるよう取りなしを頼みました。取りなしによって不老不死の神酒を受けたプシュケーの背中には蝶の翅が生え、神の仲間入りをしました。
これで身分違いではなくなり、アフロディーテもしぶしぶ承諾してプシュケーとアモーレはついに結ばれます。
プシュケー(心)とアモーレ(愛)、二人の間にはこののちヴォルプタス(喜び)という娘が生まれたのです。
おわり。



展示はてっきりプシュケーとアモーレを題材にした美術品の展示だと思っていたら、この物語の再現、各場面のイメージに合った作品の展示だった。

序盤、絶世の美女プシュケー、姿を隠したアモーレと住む宮殿から正体を見破ってアモーレがいなくなる、というあたりまではお城の地下部分が使われてて、暗いし寒いし昔の土の匂いするし他にだれも観てる人いないしお化け屋敷のようだった。古いお城雰囲気ありすぎて怖い。
むかし初めて行ったパリのルーブル美術館で迷子になり、ひたすらエジプトの棺があるコーナー、次はローマ棺コーナー、そしてギリシャ棺コーナー、みたいな延々棺桶ばかり大量にひしめいてて寒いし暗いし他にだれもいないし道がわからない!怖い!っていう最悪な思いをしたことがあるんだけど、それを思い出した。あれは物凄いトラウマになった。だってぜんぶ元は使われてた昔の棺桶!それが空にされてめちゃくちゃ大量にずらずら並んでる中をさまよってたのよ!怖かった…

プシュケーが試練を受けて地獄に行ったりする場面では、ぼんやり灯りに照らされたミレイのオフィーリア(暗闇で見ると怖い!)があったり、足元になぜか大量のアルミバケツ。見ると水が入ってて表面に黒いものが浮かんでいる。髪の毛…?て思ってのぞいたら白黒の顔写真沈んでたり…怖かった。そりゃあ地獄は怖い場所だけれども。やめてほしい。
でもさりげなくダリの彫刻が二つあって(とろけた時計と、女性の上半身切って腰部分に卵置いてあるやつ)うれしかった。
ダリ(大好き)久しぶりに見たなあー!やっぱりいいなあ!

二階からは二人が再会する場面で、打って変わって雰囲気が華やかかつ安全に。よかった。他の人もアーーコジバベーネ!コジ!(これならいいのよ!こういうのならいいのよー!)て言ってた。元がお城なので天井画もすごいし天使飛んでるし内装は金細工でペカペカキラーン。モーツァルトのオペラ魔笛の、夜の女王のアリアがかかっててゴージャスなムード。全部こうだったらいいのに…
しかもたぶん声からしてエディタグルベローヴァのような気がする。なんて安定感抜群のコロラトゥーラ…!!
(しかしこの夜の女王のアリアは「この小刀を持っていってあいつを殺しておいで!やらないともう娘じゃないよ!」と復讐に燃える母親が娘を脅すけっこう恐ろしいシーンなので、ぜんぜん合ってないと思った…ドイツ語だからいいの…?ちなみに曲はこれ。http://youtu.be/LF33yPx1ay4 2:14あたりからが歌。夜の女王役はディアナ・ダムラウ)

そしてこのアモーレとプシュケーが寄り添うカノーヴァの彫刻が飾られていた。アモーレのうっとり感がすごい。手にある蝶々はプシュケー(心、魂、息)の象徴が蝶々なのでのっているのだとおもう。きれい。

おもしろかったけど、やっぱりひとりで鑑賞するとこういう罠があって怖いなとつくづく感じた日だった。
トリノには世界で二番目、エジプトカイロにある博物館に次いで大きいエジプト博物館があるのだけど、あそこはそれで行ってない。ひとりで行ったらぜったい怖いと思う。トリノを出る前にはなんとか夫に話をつけていっしょに行ってもらおう…