utopiapartment

about something too important to be taken seriously

シルクデュソレイユ 「アレグリア」★★★★★

(アレグリア予告ビデオ http://youtu.be/fllDB3FK7pI)

トリノにシルクデュソレイユが来た。
会場はパラオリンピコ。トリノオリンピックの会場の一つ。ここは初めて来たのだけど今もオリンピックのムードが残っていて気分上がった。今回のアレグリアは数あるシルクデュソレイユの中でも長年まわりつづけている人気演目だし、未見なのでとくに期待が高まる。

スタートはソロの空中ブランコから。
よくある複数人の空中ブランコとちがって、ブランコは観客と向き合うように設置されてこちらに漕ぎ出してくる。小さな女の人が最初はのんびりと公園でこいでるみたいにブランコをこいでゆらゆらしているのだけれど、本気を出し始めたとたん予想を超えた高さ、会場の天井にぶつかりそうにがんがんこいで上がっていき、ブランコから離れてくるくるとまわる。その回転数や滞空時間や技のコンボはどんどんエスカレートしていく。

ひとりきりっていうのが迫力を欠きそうでいて、意外とよかった。すごくサーカスらしい。というのもサーカスはやっぱり驚きと恐怖とどことなく漂う物悲しさが他の舞台と大きく違う特徴だと思うのだけれど、ひとりきりに視線が集中する会場の気配の濃密さ、それを背負う彼女の小ささと孤独、エスカレートする技のあやうさに、まさにそれらを感じたから。ザワザワしていた会場が一気に舞台に引き込まれたのも始まりとしてうまいなあと思った。

その次はファイヤーナイフダンス。初見。見ててめっちゃあちちちちちちだった。迫力すごいけどなにしろ思った以上に火ついてる。ここまで火ついてて大丈夫なのか。そして裸に近い格好なのはポリネシアンの雰囲気を出すためもあるだろうけど、衣装に着火したりしないように安全面に配慮しているのだろうかとか考えてた。サーカスって観客の予想を超えたものを提供しなきゃいけないから、大変だよなあ。

個人的にサーカスの演目の中でとくにロシアンバーがだいすきなのだけど、今回失敗してた。キャッチする側が不調だったのではないかなあという感じがした。あれってバーの上の人が飛んだ瞬間に着地位置を予測してキャッチする側が的確に動くことで成り立っているから、成功はキャッチ側の技量にかかっているなあ。目立たないけど。派手なアクションはたいていこのサポート側の技術が重要だけどお客さんの目はそこには行かないし注目もされないという、精神的に大人じゃないとつとまらなさそうな位置だなあとおもう。そこにちょっと萌えるのでわたしはキャッチする側を見るのがとても好き。

それからアレグリアの見せ場といえば新体操のリボンとフープ。
これはどうもリボンよりフープが得意な人だったぽくてとくにリボンが微妙だった。新体操は好きで競技会を見ているから他より見慣れているせいかなあ、思っていたよりふつうで、あまり驚きがなかった。

一方、強く印象に残ったのが、コントーション。
中国人の女の子2人が人体ゲシュタルト崩壊起こしそうにぐにゃぐにゃに身体を曲げるもの。もう見てたらだんだん身体の前と後ろ、上と下がわからなくなりそうだった。ぐにゃぐにゃすぎてどこから頭が出ているのか、手なのか足なのかわからなくなってくる。子供の頃からこれをずっと訓練しているのだものなあ…
むかし小学生の頃に北京で国立の訓練施設に行ったことがあって、あの頃見たのは自分と同じくらいの小さな子供達が巨大な体育館のようなところで訓練していたのだけど、いま観ているこの彼女たちはあの子達のたぶん、未来なんだなあと思った。序盤に、舞台に十字型のトランポリンが出てそこを狭い距離で大勢が連続して飛ぶ、っていうのもあったのだけれど、全員がひとつひとつをきっちり丁寧に派手に決めていてやっぱり中国の雑技はすごいよなあってしみじみ思った。層の厚さも歴史もちがうものなあ。雑技団は大人になってからは観に行ったことがない。観に行きたくなった。

クライマックスは空中ブランコ。これは複数人の。ただ、ブランコは一つだけで、観客の横を向くようなよくある向きで設置されているのだけどここにキャッチ役の人が2人で乗っていて、そこに上から人が飛んで来て技を決めるタイプだった。しかも天井部分に渡された鉄棒を利用して宙空に出てからキャッチされる。鉄棒と空中ブランコのコンボ。ふつうの空中ブランコより人数が少ないのに、よりダイナミックで興奮した。これはまた観たい!

あと今回はクラウンがめっちゃおもしろかった。今まででいちばん笑った。
夫はくどいし先が読めすぎるといっていたけれどわたしは笑いの沸点が低いというか、ものすごくわかりやすい笑いじゃないとよくわからないことが多いのでピッタリだった。赤ちゃんがいないないばあで笑うのはないものが出てくることに驚いて笑うんじゃなく出てくると思ったらやっぱり出てきた!と自分の予想が当たった喜びで笑うらしいけど、わたしの沸点はいまだにそこなのかもしれない。クラウンたちがやることなすこと「やっぱりそこいくんだ!」っていう種類のユーモアだったのでめちゃくちゃ笑った。ちなみにイタリア人の観客たちは大爆笑していた。

それと、アレグリアは次の演技に移る前にさりげなく片付けやすいように動線が考えられているところとか、スムーズに移行するために出てくるスタッフが不自然に見えない工夫がかなりしてあるところに強く目を引かれた。片付けるため移るため時短のためとわかることも、うつくしく自然な流れで舞台に組み込まれていてため息が出るほどだった。他の演目よりアラがない。練りに練られている。公演回数を重ねるとやっぱりこんな風になっていくんだなあ。人気演目なのはわかる。ほんとうに楽しめて満足の舞台だった。

サーカスは美しいだけじゃなく見世物的でもあるし、危険が伴うし、観ていて喜怒哀楽で心を動かされるだけではなく、そこに驚きやかなしさがあって、ああそこまで危険なことしなくていいのに!って思うギリギリのラインを必ずなぞる。
サーカスに出てくるのは、人に見せるため人を喜ばせ驚かせるために極限を超えて自分を、芸を鍛え上げている人たちばかりだ。だからサーカスはいつも、見せてくれてありがとうという気持ちになる。他の舞台とは違う意味で人の命や人生を考えてしまうような、何とも言えないせつない気持ち。そこが好きだ。胸がいっぱいになりながら拍手した。
いいショーだった。